キーンコーンカーンコーン

授業終了のチャイムが鳴ると同時に隣のクラスに駆け込む。
そこに、私の大好きな彼がいる。

「長太郎!」

私が呼ぶと、長太郎は私に気づいて駆け寄った。

、相変わらず早いね。」
「だって、長太郎に一秒でも早く会いたかったんだもん。」

長太郎は照れたように笑った。
そうそう、そういえば。私は話し出す。

「今日ね、数学教えて欲しいんだけど時間ある?」
「今日は部活も無いから。良いよ。」

まぁ、のためなら無理やりにでも時間をつくるけどね。
そう付け足して、長太郎はもう一度笑った。

「じゃ、早く行こう。私がちゃんと理解するのに、夜中までかかっちゃう。」

私達は顔を見合わせて笑った。
この時は、思いもしなかったんだ。
こんな幸せな日々が・・・・・・
壊れていくなんて。

++++

「はぁー。疲れた・・・。」
「そうだね。ちょっと休憩しようか。」

私の部屋で勉強を始めて2時間半。
そろそろ疲れてきた。でも、長太郎の教え方が上手いからもうすぐ終わりそう。

「お姉ちゃん!お茶、持って来たよ。」

突然、廊下から妹のの声がした。
は私の1コ年下。つまり中学一年生。
まぁ、いろいろと事情があって私とは別の中学に通っている。

「ありがと、。入って良いよ。」

私は迷わずにを部屋に招きいれた。

「こんにちは。です。」
「・・・・・・。」

あれ・・・?
どうしたんだろう。長太郎。

「長太郎?どうしたの?」

いきなり黙り込んだ長太郎を不思議に思って、私は長太郎の顔を覗き込んだ。
そこには・・・・・・いつもと変わらない笑顔があった。

「ごめん。ちょっとボーッとしてた。えーと・・・鳳長太郎って言います。よろしくね、ちゃん。」

長太郎とはすぐに打ち解けて、私達は時間が経つのも忘れて喋っていた。

私はこの時、全然気が付かなかった。
長太郎の心に変化があったって事に・・・・・・。

気が付いたら、とんでもない時間になっていたので長太郎は慌てて帰っていった。
また明日ねー!
私は長太郎の背に叫んで、と手を振った。
だから、私は気づかなかったんだ。
長太郎が去りぎわに小さくの名前を呟いていた事に・・・・・・。

++++

私の家で勉強した、あの日から一週間。
信じられない位、酷い喧嘩をしてしまった・・・。

「はぁ・・・。」

私は今日、何度目か分からない溜息をついた。
喧嘩なんて、いつもなら一日たてば元通りだったのに。
何か、今度は違う。
何かがそう言っている気がして、
もう、ずっと元には戻れない気がして、
それでも今すぐにでも貴方に会いに行きたい、
そう思っている自分がいる。
喧嘩の原因は、本当に些細な事。
長太郎が、女の子と歩いているのをたまたま見てしまった。ただ、それだけ。でも、その女の子は・・・・
誤解だ、って長太郎は言ってた。
そんな事するはず無いって事も十分分かっていた。
でも、長太郎を責める言葉はとまる事を知らなかった。

―――どうせ長太郎なんて私の事、どうでもいいって思ってるんだ!!

違う。
長太郎はいつも私の事を大切にしてくれてた。
自分の事より、私の方を優先的に考えていたよね。

―――長太郎なんて、大嫌い!!

嘘。
大嫌いな訳が無い。
だってホラ。貴方を想うだけで、こんなにも愛しくて堪らない。
どうしよう。
私は長太郎を傷つけた。
この世界に、貴方の事を傷つけるものなんて存在しなくて良い。
それなら私は、

「そうだ。私なんて要らないんだ。」

私は机の上に置いてあったハサミを手に取った。
たしか・・・そう。
手に持ったハサミを手首に当てた。

「静動脈を切れば、致命傷だよね。」

ハサミを持つ力を強めた。
そして、手首に当てたままハサミを横に引く。

「血・・・。」

手首からは不気味なほど赤い血が流れている。
私のこの血は、貴方への罪滅ぼしの証、なのかな。
そんな事を考えて、まだ血が止まらない手首にもう一度、ハサミを当てた。その瞬間。

・・・」

に弾かれたハサミが床に落ちた音が部屋に響く。
は、私を睨んでいた。
悲しそうな目をしながら・・・・・・。

「お姉ちゃん!!何やってるの!?そんな事したら死んじゃうよ!」

何で、止めるのよ。
私は無意識に拳を握った。

「元はといえばアンタのせいでこうなったのよ!!」
「え・・・?」
「私、見たのよ。が長太郎と一緒に歩いているのを。」
「・・・!」

やっぱり。
見間違いなんかじゃ無かったんだ。
長太郎と一緒に歩いていたのは、紛れも無いだったんだ。

「出てってよ。さっさと・・・。」
「・・・・・・。」

私がそう言うと、は部屋から出て行った。
もう、何も考えたくない。
私は静かに眠りについた。愛しい彼の事を思いながら。



なんて、もうどうでも良いから。」

嫌。何でそんな事言うの・・・?
いつもみたいに笑いかけてほしいのに。

「もう、前みたいには戻れないんだ。バイバイ、

嘘でしょ・・・?
行かないで、長太郎。
私を一人にしないで・・・・置いていかないで。
待って、待ってよ・・・

「長太郎!!!」

目を開けたら、そこは・・・いつもと同じ、私の部屋。
じゃあ、さっきのは。

「夢・・・。なのかな。」

嫌だ。怖い。あれが現実になるんじゃないか、って。
夢だけで終わって欲しい。
私は痛いほど目を瞑って、願い続けた。

++++

まだ、夢の事が忘れられなくて。
私は、重い体を引きずるようにして、学校へと足を運んだ。
学校の門をくぐると、そこには、
夢にまで見た彼の姿があった・・・・・・。

「ちょ、たろ・・・。」
「おはよう、。」

久しぶりに、目の前で聞いた貴方の声。
ようやく聞けた貴方の声が、泣きたくなるほど愛おしくて。

「今日、一緒に帰りたいんだけど・・・良いかな。」

思いもよらない、長太郎の言葉。
私は嬉しくて、嬉しくて、それでも顔には出さないようにして答えた。

「うん。良いよ。」

放課後が、待ち遠しくてしょうがない。

++++

「でねっ!!」

私達は帰り道、今までの溝を埋めるかのようにたくさん話した。
この、普通の会話の一つ一つが夢みたいで。
離れていた分、すごく幸せ。
でも、その幸せも長くは続かなかった・・・
明るい雰囲気を破るかのように、いきなり長太郎が真剣な顔をした。


「どうしたの・・・?いきなり。」
「別れて欲しい。」

・・・え・・・?

「な、んで?」
「俺は・・・ちゃんが好きなんだ。初めて会ったあの日から。」

そうか・・・。そうだったんだ。
長太郎の顔を見ていられなくなって目を逸らすと・・・

・・・。」
「お姉ちゃん・・・。ゴメン。聞く気は無かったんだけど。」

は、申し訳無さそうに顔を伏せた。
そして、長太郎は喋り出す。

「俺は・・・・・・ちゃんの事が好きなんだ。付き合ってほしい。」

長太郎の言葉に胸が痛む。
・・・だから、一緒に帰ろうなんて言ったんだ。
私、一人で舞い上がって、元に戻れた、なんて思い込んで・・・・・・馬鹿みたい。
は、私の方を見てる。
、もう返事は決まってるんでしょ。
私もの方を見ると、一瞬、目が合った。
そして、は口を開いた。

「私も・・・鳳先輩が、好きです。」

が、そう言い切ると長太郎はいつもの笑顔を見せた。
その笑顔は、もう私に向けられる事は無い・・・
気が付けば、2人は私に背を向け歩いていた。
私は2人の姿を見送る。

私がもっと素直になれていたなら、今でも貴方は私に笑いかけてくれていたのかな。
視界にうつる、君の背中がにじんで見える。
なんだろう。
私は目をこする。
あぁ、そうか。泣いてるんだ、私。

「ッ!!」

ふいに、左手首に痛みが走る。そう。あの時の傷。
でも。ハサミで切った傷口の痛みよりも、貴方の言葉の方が痛く感じた。
とめどなく溢れだす涙は、悲しいから出てくるのかな。
私は、空を見上げて涙をこらえた。

私の言葉はきっと貴方に届くことは無いでしょう。



君の背中

(この青空の下、私は貴方を想う。たとえ報われない想いだとしても。)




――――071111再録