関東大会、俺達氷帝は青学に敗れた。
悔しかった。
悔しくて、悔しくて、その思いをテニスにぶつける事しか出来なかった。
自分を見失う位、練習に打ち込んだ。
ただ、がむしゃらに。
来年こそは...そんな思いを持ち出した頃、一つの知らせが来た。
氷帝学園も全国大会に出れる、と。
それを聞いて俺は、さらに練習に励んだ。
それは俺だけじゃなくて、先輩達も同じだった。
++
そして、全国大会。
再び青学と対戦する事になって、俺達はリベンジを誓った。
しかし結果は・・・負けだ。
俺は、激しい脱力感に襲われて近くのベンチに腰を下ろした。
ふと顔を上げると、ある人物に視線が釘付けになった。
「先輩が・・・泣いている・・・?」
俺の視線の先では、跡部さんや宍戸さんに支えられながら声を上げて泣いている先輩の姿があった。
先輩は3年間ずっとテニス部のマネージャーをやっている。
でも今まで、先輩が泣いているのを見た事が無い、気がする。
どんなに辛い仕事の時だって、
レギュラーのファンに呼び出されて、嫌がらせを受けていた時期だって、
俺達の前では、いつも笑顔を絶やさない人だった。
「なのに・・・、」
なのに、今は人目も気にせず声を上げて泣いている。
それだけ、悔しいんだ。
頭の中に昨日の先輩との会話が浮かんだ。
++
部活が終わってから30分。
今、部室には残って練習をしていた俺と、部誌を書き終えたばかりの先輩しか居なかった。
「ねぇ、若。」
会話をする事もなく帰る準備をしていた俺に、先輩が
声をかけた。
「なんですか?」
先輩に背を向けたまま答える。
少し急いでいたから、という理由で。
そんな俺に構わず、先輩は話し続けた。
「明日、さ・・・青学と試合だね。」
そう言った先輩の声が不安げで、俺は思わず手を止めて先輩の方を見た。
そこには、座ったまま俯いている先輩の姿があった。
「そうですね。不安なんですか?」
「不安、だよ。不安だけど・・・皆、出来るだけの事はやってきたから。」
「それなら信じてください、俺達を。絶対に勝ちますから。」
俺がそう言うと安心したのか、先輩はいつもみたいに笑った。
その笑顔を見て、俺もホッとした。
やっぱり先輩は笑っている方が良い。
「そ、だね。頑張ろうね、明日!」
「はい。」
この時先輩が、"頑張ってね"じゃなくて"頑張ろうね"と言った事がなんとなく、嬉しかった。
先輩もメンバーの一員だという事が改めて実感出来たから。
「やるからには勝たないとね!」
「当たり前でしょう。」
「じゃあ、約束ねっ!」
「好きにして下さい。」
絶対に勝てるなんて言っといて、このザマか。
結局この日、先輩はずっと泣いていた。
++
後日、3年の先輩達の引退式があった。
部長は跡部さんの指名で俺になった。
そして、鳳が俺の隣で号泣している。
・・・・・・うっとうしい奴だな、まったく。
「いつまで泣いてんだよ。みっともないぞ。」
「だって、宍戸さんがッ・・・引退しちゃうんだよ・・・。」
こいつの頭の中は、宍戸さんしかないのかよ・・・。
どうせ一年経ったら高等部で同じ部活だろ。
「こら、長太郎。いつまでも泣いてたら亮が困っちゃうよ?」
いつのまにか、先輩が3年の列を外れて俺達の所に来た。
俺も鳳も、突然目の前に現れた先輩に驚いて視線を向ける。
普段は一つに結んでいる髪を、下ろしている先輩を見てなぜかドキッとした事は言わないでおこう・・・。
「そーだぜ!長太郎。激ダサだな!」
先輩の後ろから、宍戸さんが現れた。
宍戸さんと先輩、仲良いのか・・・?
って!
何で俺はそんな事考えてるんだよ!
「宍戸さーん!!!」
「分かったから。いい加減、泣くなよ。」
「あははー。」
鳳と宍戸さんのやり取りを見て、先輩が笑った。
・・・こんな場面も、もう見れないのか。
いつの間にか、宍戸さんと鳳は居なくなってた。
その場に残された俺と、先輩。
お互いに何を喋るでもなく、ボーっと正面を向いていた。
「先輩・・・。」
「なに?若・・・どうしたの?」
気づけば俺は、先輩を抱きしめていた。
自分でも何でこんな事をしているのか分からなかった。
ただ・・・強がってても弱い貴女を守りたいと思ったんだ。
「約束・・・守れなくてすみませんでした。」
「約束・・・?・・・あぁ、気にしないで!皆が頑張ってたのは私が一番分かってるから。」
精一杯明るく振舞っている先輩を見ていると、苦しくなる。
「でも、次は絶対に・・・下克上するんで見ててください、俺を。」
「若・・・。」
俺の名前を呟く先輩の目には涙が浮かんでいた。
やっぱり先輩は弱い。
だからこそ、俺が守りたいと思ったんだ。
「私ねっ!」
気づけばもう先輩の目に涙はなくて、そこには笑顔があった。
あぁやっぱり。
貴女は笑っている方がずっといい。
「高等部でも、テニス部のマネージャーやりたいんだ。」
「出来ますよ、先輩なら。」
本当にそう思う。
あんなに個性の強い人達の世話を3年間もしてきたんだから。
「だからね、待ってるよ。若のこと。」
「・・・・・・。」
「下克上達成して、また一緒に部活しようね!」
先輩は拳をつき出して言った。
俺は先輩の拳に自分の拳をぶつけた。
そして先輩は、また笑った。
あぁやっぱり。
貴女は笑っている方がずっといい。
涙の理由
(あー!日吉がの事襲ってるC−!)(えっ…)(ふざけんなー!)
――――071112 再録